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九条静音の黒執事妄想劇場
セバスチャンxシエルのBL中心の日記です。九条静音の黒執事個人誌の紹介もあります。その他ネタバレの配慮は致して居りませんので、ご注意18禁有り
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「セカイの調律した祈り」素敵な頂き物
素敵なセバシエ小説頂きました(*^_^*)
TLで書きかけていらっしゃったので、「読みたいです」とオネダリしまして、
死渡幻夢様が書いて下さり、ちゃっかりと頂きました。
相互リンクして頂きまして、ブログに載せる許可も頂きまして、更新させて頂きます。


セカイの調律した祈り 1 セバシエ ツイッターUP済み
________________________________________


九条静音様に捧げます。九条様だけ、宜しければお持ち帰りくださいませ。



インスパイア→少女病【告解エピグラム セカイの調律した祈り】
前世捏造絡みのお話になります。























★★★★★★★★★★★





「悪魔の翼は、皆お前みたいに黒いのか?」


柔らかな日光が窓から射し込む執務室。
ソファで仰向けになっていたシエルは、
頭上に見える顔に問う。
視界に入る陽にも負けぬ穏やかな微笑みは、
とても闇に生きるモノとは思えない。


「翼、ですか?」


膝枕として使われている執事は、些か首を傾げた。


「ああ、翼だ」

「何故突然そのようなことを?」


前触れもない問いに、
執事は不思議そうな顔をしている。
子供の思いつきによる発言や問いは日常的だが、
悪魔について訊ねることは今までになかった。
知ったところで、
自分とは全くの無関係だと思っているのだろう。
契約に関すること以外は、だが。


「……別に」

「別に、じゃないでしょう?」


顔を背けるシエルの頬を引っ張り、
執事は無理矢理自分の方に向かせる。
主人に対して使用人が取る行為としては、
随分礼儀知らずだ。
けれど、シエルはそれについて咎めたりしなかった。


「……放せ、痛い」


不快な眼差しを向けるも、主人の色はない。
……対等、と表現するには過ぎるだろうか。
しかしそれに近い雰囲気ではあった。
シエルはいつまでも続く行為に、
瞳の濃紺を強めて軽く睨む。
鬱陶しいとでも言いたげに。


「貴方が仰れば済む話でしょう?」


コツン、と
執事は手の甲で主人の頭を優しく小突いた。
その笑みはどこまでも柔らかい。


「……ムカつく」


シエルが舌打ちをすれば、執事は即座に咎めた。


「英国紳士がそのようなことをなさってはいけませんよ。無論言葉遣いもですが」

「今は“ただの”シエルだから別にいい」


ぞんざいに切り捨て、
未だに頬を引っ張る手を払い除ける。
ひりひりとした感触に、子供は顔をしかめた。


「痕が残ってくれたらどうしてくれるんだ」

「それは失礼致しました。“シエル・ファントムハイヴ卿”はお顔が命ですからね」

明らかな厭味だったが、シエルは余裕綽々と返す。


「はっ、ソレ以外は能なしとでも言いたいのか? お前という駒を動かしているのは、紛れもなく“奴”だというのに」



――シエル・ファントムハイヴ卿と、ただのシエル・ファントムハイヴは、違う。
復讐のためだけに生きる存在にならぬよう、
取り留めた命の価値を見出だせるよう、
……が与えた、論理(logic)
故に今、この現状が存在し。


「そうでしたね。頭脳と顔を取ったら彼には何も残らない、と言うべきでした」

「それでも厭味には変わりないがな」

子供は徐に手を宙に伸ばし、
執事の耳にかかっていた黒く艶やかな髪を引っ張る。
ぷつっと切れる音がすれば、
指先には一本の毛が残った。
シエルは思わず小さな笑みを洩らす。


「子供ですか貴方は」

「煩い。それよりさっきの「大抵の悪魔は黒い翼ですよ」


まだ続いていたのかと半ば呆れながら、
彼は答えを口にした。
そもそも翼についてなど、悪魔が考える意味もない。
あらゆる負の情から産まれた、この身。
形成している主たる色が黒であるのは、
言うまでもないこと。


「まさか白い翼の悪魔を見た、とでも?」


揶揄めいた疑問が、自然と飛び出す。
――そんなわけあるか。
返ってくる答えは、目に見えている。
執事はそう疑わなかったが、
シエルの表情は険しくなった。


「……シエル?」

「何で……“白”だと?」


子供の濃紺が戸惑いに揺らめく。
彼としてはあまり深く考えたわけではなく、
ただふと浮かんだからなのだが。



……何故かは、わからない。



何が重要かといえば、ソレこそが重要だというのに。
他のどの色でもなく、
“白”を言葉にしたことこそが。
けれど執事には全くわからない。
シエルも、ソレが真実として何を意味するかまではわからない。



「……見たのは、夢の中だ」

「夢? それなら様々な記憶が絡まって「違う!」


否定の声は、強く。
滅多に些末なことに拘らない子供が、
今は断固として言い張っている。
騙しも流しも許さない、毅然とした態度。


「ですがシエル、可能性としては天使の「……紅い、瞳だった」


声色は僅かに震えている。
一瞬閉じた濃紺は、弱々しく姿を見せ。



「白い翼に、紅い瞳だった。アレは、忘れない」



それを最後に、シエルは黙り込んでしまう。
普段からは想像もつかない脆弱さに、
執事は違和感ばかりを抱いた。
それでも落ち着かせるために頭を撫で、諭そうとする。


「……仮に悪魔だとして、貴方に何の「睨んだんだ、僕を見て。まるでこの世の全てを呪い憎悪するような、燃え盛る瞳で。それに――」





『――さあ、貴方を殺して終わりましょう。』





人には到底出せぬ音で、
あらゆる負の情を染み込ませた凄絶な音で、
その悪魔は囁き笑った。
今でも思い出せる。
真っ赤に染まった手が延ばされ、
喉元に触れる刹那――シエルは勢い良く叫んで。



「来るなッ!!」

「坊ちゃん!?」


気圧され、呼び名が変わる。
幼い主人がここまで取り乱すことは滅多にない。
忌まわしき過去に触れられた場合ならば、
過剰な反応を見せるのも仕方ないのだが。
今のシエルは夢“如き”に脅えているのだ。
夢で見た、白い翼に紅い瞳を持つ悪魔に。


「坊ちゃん、シエル、しっかりなさい。そんな悪魔は此処にはいないでしょう?」





――瞬間、自分の中の“何か”が嘲笑(わら)った気がした。





「っ……」


執事の優しさを帯びた叱咤を受け、
シエルは漸く我を取り戻す。
瞬きを繰り返す濃紺は、
先程よりも強さを取り戻していた。


「……悪かった」


主人が身体を起こせば、
執事は彼の腕を軽く引っ張って、
また同じ体勢に戻す。


「何してっ」


セカイの調律した祈り 2
________________________________________


「本日のスケジュールには余裕がございます。少し仮眠なさっては?」

「いらん、出過ぎた真似はするな」

「心外ですね。恋人として、貴方のお身体を労るのは当然では? それともこういう時、“人間”は放っておいて無理をさせるのですか?」


種族が違う故の皮肉げな質問に、
シエルは唇を噛み締める。
こういうところが厭らしい、と思う。
どう言えば自分を上手く誘導できるか、
それを知っているから憎らしい。
だがそんな愚痴を吐いたところで意味もなく……
シエルは無言で瞼を閉じた。
一時間後に起こせ、と呟けば、
執事は肯定を告げる。


「ええ、おやすみなさいませ」


優しい声が、空間を揺らした。
それを最後に音は全て断たれ、
室内は静寂に包み込まれる。
執事の膝を枕に、幼い主人はもう夢の中だった。
ひどく疲れが溜まっていたのだろう。
弱味を見せず、決して弱音を吐かない、
強がり意地っ張りな面。
普段はそれでいいとしても、
こうして二人でいる時ぐらいは……。


「貴方の本音を聞きたいものですね」


彼はいとおしげに瞳を細めて呟く。
直後――視界から一切の光が消えた。











「……此処、は」


執事は立ち尽くしたまま、困惑げな顔で小さく洩らす。
目の前は真っ暗な闇。
先程まで彼がいた暖かな空間は、
今は完全に身を潜めている。


「夢の中、でしょうか」


シエルが瞼を閉じて暫くしてから、
執事自身急激な睡魔に襲われた。
まるで強制的に此処へ連れ込まれたかのように。
本来、悪魔である彼に睡眠は必要ない。
余程体力が低下しているなら話は別だが、
高位の彼がそこまで衰弱することも滅多になく。
付け足すなら、
その彼を夢に引き摺り込めるモノなど、そう多くはないのだ。


「……アレ、は」


不意に闇の中で、何か白いモノが浮かび上がった。
血の如く紅い、光も。
白い翼が、バサリと羽撃く。


「……紅い瞳に、白い翼。坊ちゃんが見た悪魔……いや、でもアレは」


執事は戸惑う。
顔全体は見えないのに、
どこか懐かしい感じがした。



(私は……“彼”を知っている?)



見えるのは、純白と純紅だけ。
それでも、執事は“彼”と呼ぶのに何の躊躇いも感じなかった。


「……貴方は、誰ですか?」


問い掛けながらも、彼は愚問だと思わずにはいられない。
自分は知っている。
故に、信じられない。



……やみが、ふるえる。



『――思い出しなさい』



残酷を纏う、凍てついた声。



『――その場所まで堕ちた、修復できぬ傷を』



世界の全てを厭い呪う、穢れの声。



「……っ」


頭に精神体に直接響く魔の声に、
彼は両手で耳を抑える。
絶対的な支配力が働き、
気を抜けば今にも意識を奪われてしまいそうだった。



『――貴方はすぐに騙される』



憎悪の裏に憐憫を含んだ、痛みの声。
顔をしかめる執事を無視して、ソレは続く。



『――殺しなさい、悲劇を断つために』



――殺しなさい。
その声だけが、
塞いだ耳にまでやけに鮮明に響いた。
誰を……なんて決まっている。
この悪魔が、
あの子供の元にも姿を見せたのであれば。


「……貴方も悪魔ならわかるでしょう。契約違反になることぐらい」『――思い出しなさい』


高らかな声が、催促するように響く。
白い翼が、羽撃く。
その純白に、舞い落ちる羽根に、
彼はひどく苛立った。
いっそのこと全部黒く染めてしまいたい、
そんな嫌悪感さえ抱き。
そもそも悪魔に純白など最も縁遠い。


「貴方は夢魔の類ですか?」

『……』

「答えないならば肯定と『……まだ、まだ思い出さないのですか? セバスチャン・ミカエリス』


静かな絶望を孕んだ声が、
闇に響き、溶け込んでいく。
けれど、思い出せと言われても、
執事……セバスチャンには何のことだかわからない。
記憶を辿ろうとしても、
靄がかかったように見えてこない。



『私の正体など些末なこと。ですが、私はそう……今ここで貴方にこそ告げるために。この場所で――』



……ふっと、黒以外全ての色が消える。
セバスチャンは咄嗟に警戒したが、
軽い眩暈に襲われた。


「っ……」


状態は悪化を辿り、精神体の身が揺らぐ。
膝をつきそうになりながらも保った視界には、
一瞬だけ……異質な悪魔の表情を捉え。



「……わた、し?」



呟きに、悪魔は初めて哀しげに微笑んだ。
それはとても寂しげで、
刹那見えた純白さえ霞んでしまいそうな……。



「貴方はっ『私にできることは導くことだけ。――さあ、終わりましょう』





――純黒を、純白へと。
どちらにせよ救いにならず、
“悲劇を重ねる”行為。
だけど、もう止められない。
歯車は既に――時を巻き込んで回り出す。





真実の欠片を掴み取ることさえ叶わぬまま、彼は瞼を閉ざした。











「……はっ」


急いで目を開けば、
膝枕を利用しているシエルはまだ心地好く眠っている。
壁時計を見遣れば、まだ五分も経過していなかった。
ひどく長く思えた時間に、
セバスチャンは息を吐く。
とりあえず体勢が崩れなかったことは幸いだろう。
安眠妨害だと、
主人に機嫌を損ねられても困るから。


「何故私が貴方を殺さなくてはならないのでしょうね」


こんなにもお慕いしているのに……。
続けた言葉は、妙に冷め切っていた。
自分が発したとは思えない様に、
彼は違和感を覚える。
慕う? 誰を?
この子供を? 



――どうせ、裏切られるのに?



「……っ」


浮かんだ想いに、頭を振った。
有り得ない、有り得ない。
そう何度も、彼は自分に言い聞かせた。
それなのに浮かんでくるのは、
あまりにも醜悪で残酷で……救われない、感情。


「……貴方を、殺したくはっ」


言葉が途切れ、黒い爪が、白い指が、
シエルの首を緩く掴む。
自然と、力が込められた。



『さあ、終わりましょう』


「――ッ!!」


脳に直接響く声に誘われ、シエルの喉を圧迫していく。
指先が皮膚に食い込むのを見て高揚する自分に、
セバスチャンは愕然とした。
しかしそれを拭い去るかの如く、
様々な映像の断片が脳裏を過る。
黒く染まり続ける翼の記憶に、
たった一度だけ。





『……どうせ貴方も裏切るのでしょう?』





「……セ、バ「嗚呼……そういうこと、ですか」



呼吸ができず、苦しさから目を開いたシエル。
彼はそれを見下ろし、
何かを納得したのか冷ややかに口元を撓めた。
首を絞める力は、
先程よりも確固たる意思を持って、強く。


「不思議なものですね。さっきまでは、欠片すら忘れていたのに」



記憶の忘却、ソレは自らが選んだこと。
だが一度でも蓋を開けてしまえば……封は綻んでいく。


「セバ、スチ……ぅっ!」「申し訳ありません、シエル。私は私のために、貴方を殺さなくてはならないようです」


突然の告白と暴力的な絞殺行為に、
シエルは驚いた顔でセバスチャンを見つめた。
何故? 何故?



セカイの調律した祈り 3
________________________________________


言わずとも聞こえてくる言葉に、
セバスチャンはせせら笑う。


「白い翼に紅い瞳……ええ、確かにいますよ。その悪魔は、確かに存在しています」


声色は可笑しくてたまらない様子で。
けれど、ひどく寂しげで。
シエルが手を延ばせば、
彼は空いている手で掴んだ。
そして……。



――バキッ!



「っぅっ!?」


鈍い音が響いた後、
セバスチャンは掴んだ手を解放する。
折られた腕は力なくだらりと下がり、
僅かな動きさえ儘ならない。
何が起きたのかと呆けていたシエルだが、
状況を理解すると一変した。


「……何のつもりだ?」


地を揺るがす勢いの、低音域。
首の痛みは、怒りで麻痺している。


「さすがは坊ちゃん、ご理解が早い」


絞める力を緩め、
悪魔はくつくつと喉を鳴らして笑う。
執事から悪魔に変わった顔を、
子供は睨みつけた。


「上辺の世辞はいい。貴様……どういうつもりだ」

「申し上げたでしょう? 私は私のために、貴方を殺すと」


不遜な態度に、謝罪は見られない。
シエルは内心では動揺を捨て切れなかったが、
取り乱さないよう繕った。
隙を見せれば即絡め取られてしまうと、
経験上嫌というほど知り尽くしているからだ。


「お前が契約違反か。美学とやらは棄てたか?」

「口が減らないものですね。命乞いなさる気もないのですか?」

「する理由も気もないな」


言い分は尤もだ。
シエル自身に非は全くない。
それで殺されるというのであれば、
理不尽だと非難したくもなるだろう。
けれど幼い主人は絶対にソレさえ口にはしない。
死はいつだって、
理不尽に、不平等に、襲い掛かるものだから。
何よりも誰よりも彼は、
その残酷を知っているから。



……けれど。



――死を恐れないことと、命を投げ出すことは、違う。



「お前と契約した時から、僕はいつ殺されてもおかしくないと思っている。お前が契約を絶対に守るなんて、そんな幻想(ゆめ)は見ていない。だが理由なく差し出せるほど、この命は安くないぞ」


歴代のどんな王よりも気高い王が、
其処にはいた。
子供は知らないのだろうか。
否、知っているはずだ。
魂が気高ければ気高いほど、
悪魔は穢してやりたくなるということを。
どんなに強固な魂だとして、
一切の穢れに染まらぬ魂は……“普通は”ない。


「美しいですね、貴方は。例え四肢を全て折られ、眼球を抉られても、態度は変わらないのでしょう」


愉しげな色を含んだ声にも、
シエルは動じる様子を見せない。
一分の隙も与えてはならない。
この悪魔には、
どれだけ用心してもしすぎることはないのだから。
まだ無事な腕を延ばし、
子供はセバスチャンの胸ぐらを掴む。


「無駄が過ぎる。何故僕を殺すか言ってみろ。ソレ次第ではこんな命ぐらいくれてやる」



潔さはされど――逆鱗に触れるには、充分だった。


「がっ!!」


首を掴まれていた手に力を込められ、
シエルは苦痛に顔を歪める。
ギリギリと食い込む黒爪は、生命の色を滲ませた。
セバスチャンは手を高く上げ、
小さな胴体を楽々と浮かせる。


「私がお護りしてきたモノを、“こんな”と仰いますか?」


紅い瞳が、昏く光る。
指先は冷たく、一切の体温が失われていた。
首を絞める力だけで身体を支えられているため、
子供は下手に身動きが取れない。
……握り締めていた拳から、何かが落ちた。
先程までセバスチャンの胸ぐらを掴んでいた手。


「……嗚呼、まだこんな」


絨毯を一瞥し、悪魔は火を起こす。
空いている掌の上で、小さな炎が燃え盛る。
全てを呑み込んでしまいそうなソレに、
シエルはひどく嫌な予感がした。



――燃やさせてはいけない。



理由なく、けれど強く強くそう思って。


「……やめ、ろ」


擦れた小さな声で制すれば、
セバスチャンは首を傾げる。


「何故です? 貴方は知らないでしょう?」


事実を突きつけられ、子供は黙り込む。
無関係でない気がしただけだと言えば、
嘲笑って切り捨てられるのは目に見えているからだ。
しかし強気も威勢も気力があればこそ。
体力の限界がきたのか、
幼い顔は青白く染まり始めている。
同時に――セバスチャンの背から現れたのは、
黒い翼……では、なく。


「……な、んで」


シエルは目を見開き、視界に収まる翼を凝視する。
悪魔を示す翼の色は、黒。
数多の書物にも描かれ、
セバスチャンもまたそうであるはず、だった。
ところが彼の翼は完全な漆黒ではなく、
薄く白が混ざっている。
聖なるモノに対して描かれる、白が。


「貴方を殺すと決めたからですよ」


意味がわからない。
子供は考える間もなくそう思った。
純白は穢れから最も遠い天使の色故、
穢れに満ちた悪魔とは縁がないはずだ。


「まさ、かお前は……悪魔じゃっ「いいえ、悪魔ですよ。純白に一切の穢れがないなんて、人間が決めたこと。まあ穢れに染まっても、表面上はわからないでしょうね」


皮肉に、聞こえた。
夢の中の声にも似ていると、
この世の全てを憎み呪うような声に、似ていると。
……子供の感覚は、的外れではない。


「わから、ない?」

「過去に“虐殺の”天使と呼ばれた天使がいましてね。彼は天使でありながら、純白の翼を持ちながら、数多の人間を殺したのです。この世界は不浄に満ちていると。本当は彼こそが穢れた存在であったのに」


思わせ振りに、セバスチャンは笑みを深める。
これは挑発だと、シエルは気づいた。
鋭く睨みつければ、首から手が離される。
支えを失った小柄な身体は、
絨毯に尻餅をついた。
周辺にテーブルがなかったことが幸いだろう。
頭にでもぶつけたら、
大怪我をしていたかもしれない。



(今だけはフィニに感謝だな……)



テーブルを誤って破壊した駄目庭師を思い、
シエルは心中で洩らす。
魔力で修復するような物ではないため、
わざわざセバスチャンに直させはしなかった。
賢明な判断だったと、今なら言える。


「げほっげほっ!」


急に解放された喉から空気が入り込み、
子供は大きめの咳を繰り返す。
涙目になってぼやけた視界には、
ソファから立ち上がり見下ろす悪魔の姿。



そして――



「っぁぁぁっ!!」


掌で踊る炎が肩に押しつけられ、
シエルは悲鳴をあげた。



――思い出してしまう、背中の印、その熱さを。



――消えない、烙印。



「っ……」


どんなに時が経とうとも、身体は忘れない。
心を麻痺させることはできても、
身体だけは永遠に覚えている。
鎖に繋がれ、檻に囲われ、
気持ち悪い視線が突き刺さった。
檻の外では、数多の汚れた手が身体に触れてきた。


「……っ」


子供は咄嗟に、口元を手で覆う。
抑え切れない嘔吐感が迫り上がってくる。
折れている腕も激痛を訴え始め、
頭がイカレそうになる。
けれど――シエルが苦しめば苦しむほど、
セバスチャンの翼には白が滲んでいった。
歪な、異質な、翼。
……その裏に隠された、痛み。


「脆弱ですね。この程度の火傷、痛みの内にも入らないでしょうに」


セカイの調律した祈り 4
________________________________________


肩口から、炎が消える。
限界を訴えたシエルの身体は、
絨毯に俯せの状態で倒れ込んだ。
濃紺の瞳に映ったのは、淡い銀に輝く、落下物。
――何故、これを消そうとするのか。
ネックレスにしてまで身につけていたくせに。
“指輪”を見つめながら、子供は考える。
ソレが辿ってきた道筋、即ち“過去”を。
そもそも指輪自体が、
世間一般では特別な意味合いを持つモノなのだ。
しかもそれにチェーンをつけて、
首から掛けていたのなら尚更のこと。
悪魔がただの装飾品に興味を持つとも思えない。
とすれば……


「これは、お前の恋「私が“裏切った”人間から貰った物ですよ」


嘲りを含んだ返答が投げられた。


「……裏切った? まさか契約者の「いいえ」


はっきりと、凛とした声色で、
セバスチャンは否定する。
一度だけ、翼が羽撃いた。
紅い瞳は、その深さを昏く強める。


「詮索好きな貴方に教えて差し上げましょう。私達悪魔は人間を誘惑する存在ですが、同時に私達は人間に焦がれる運命なのですよ」

「嘘だ!」


セバスチャンの説明に、
シエルは顔を上げ、声を荒げて叫ぶ。
急に負担をかけられた喉は、
小さな咳を何度か引き起こした。
そうするぐらい、信じられなかったのだ。
悪魔が人間に焦がれるなんて、
餌に糧に焦がれるなんて……あるわけがない。
その否定は即ち、
甘やかな時間すら虚偽に変える。
……溺れることは、ない。


「っげほっ、そんな、わけっ「悪魔自身も最初は気づいていないんですよ。愛した人間に“裏切られ”、以前よりも翼が一層黒く染まった時……思い出すのですから」


狂気や哀しみ、行き場のない痛みを抱いた瞳は、
遥か遠くを見つめているようで。


「悪魔が人間を愛しても報われることはありません。そうでしょう? 悪魔なんですから。数多の絶望から産まれた故に“絶望を義務づけられた存在”なんですから」


悪魔は笑う。
乾いたまま、虚ろなまま。
……子供は、言葉を失った。
目の前にいる悪魔が、
いつも人を見下し虫けらのようにしか扱わない彼が、
今はただの人間ではないかと思えてしまう。
瞬間脳裏に浮かび上がったのは、純白の翼。
黒が裏切られた証というなら、
白は、まさか……。


「ご名答ですよ、坊ちゃん。“裏切った”側の証です」

「がっ!?」


突然の衝撃に、シエルはまた顔を伏せる形となる。
いくら絨毯が敷かれているとはいえ、
勢い良く顔面から突っ込むのでは痛みも倍増だ。
――顔を、殴られたのではなく、蹴られた。
頭が理解するまで、
数十秒はかかっただろう。
あまりにも、非現実的すぎたから。


「愚かで無様ですね、人間は」


淡々とした、
否、軽蔑を含んだ眼差し。
その奥に潜むのは、紛れもなく哀しみ。


「糧でしか餌でしかない貴方達に、私達悪魔は愛し焦がれる運命。ですが大抵は裏切られて終わるんです。それに気づけた悪魔は裏切る側に回る。その繰り返しなんですよ」



どちらに転んでも、安寧の成就は許されぬ運命。
白い翼も、黒い翼も、
成就を許されなかった愛の残骸。
だから彼等は無意識に、
“何も愛していない瞳”を装い続ける。
皮肉な運命に、逆らえずとも……。


「僕はちが「貴方は裏切らないと? 悪い冗談でしょう。貴方が不確かなことを約束なさるわけがない」


屈んで目線を合わせ、シエルの顎を掴む。
そのまま無理矢理上げれば、
眼帯がするりと落ちていく。
晒されたのは、
死の、紫の、契約印。
二人を繋ぐ、絶対的な絆。
否――鎖、呪縛。
もう片方の手で、セバスチャンはソレに触れる。
――抉り取りたい。
浮かんだ衝動は、
悪魔が持つ本来の残虐性を駆り立てた。
そう、これこそが、悪魔の在り方だ。





――決して空を見るな貴方こそが、幻想(ゆめ)を選び底を這う姿だ。





頭に響く声は、重く低く……どこか物悲しい。
芯から揺さ振られて、
胸を締めつける痛みを倍増させる。
彼は機能していない右目に、契約印に、指を挿し込む。
“解く”のではなく、“壊す”ことを選んだのか。
二度と戻れずとも。



「……まるで人間だな」


痛みなど感じないフリを装い、
シエルは気の抜けた笑みを零す。
ソレは安堵にも似た、
この状況には不思議すぎるモノで。


「さすがの貴方も頭がイカレましたか?」

「イカレたのはお前だろう? 理由は聞けた。後は好きにしろ」


思わぬ許可に、彼は印から指を退いた。
冷静な表情に、動揺が広がる。
この子供は、
こんなにも簡単に命を差し出せただろうか。
逆恨みとも取れる愚かな行為に、文句一つ発さず……
ただ、ただ、聖母のように受容して。


「ふっ、間抜けた顔だな。さっさと殺せばいい。お前にはその資格がある」


圧倒的劣勢に置かれながら、その矜恃は永久不滅。
だから、己は魅かれたのだろうか。
あの日、喚び出しに応じたのは、
この魂だからこそ……馬鹿な。


「潔さは美しいですが後悔なさいませんように。私はマダムと違い、貴方を殺すことに迷いはありませんので」


宣言通り、
セバスチャンは顎から首へと手を移動させる。
それを見て、シエルは嘲った。
途端、悪魔の顔つきが険しくなる。
不快の色を滲ませ、眉間には皺を寄せて。


「何が可笑しいのですか?」「ふん、自分で考え……っ!」


急激に力を込められ、子供は言葉を失う。
今までの非ではない。
確実に殺すための、暴力。
このままいけば、
細い首は容易く折られてしまうだろう。



(ああ、それでも――)



遠ざかっていく意識の中、シエルは想いを馳せる。
セバスチャンは気づいていないモノ、
紅い瞳から零れ続けるモノに。
最期まで復讐を選ぶならば、
死に物狂いで抵抗するべきだ。
頭では理解している。
こんな形で生を終えるなんて、
馬鹿げていると。
それなのに指先一つ動かせない。
まるで、“ずっと昔から”、こうなることを望んでいたような、
奇妙な錯覚。
何かに浮かされるように、
子供は、ぽつりと呟いた。声など出せないはずの、その唇で。



「……“今度”は、連れてってくれるのか」


満ち足りたかのような声が、彼の鼓膜を揺らす。
――直後、首から手は放された。
ドサッ、と顔が床に伏せられる。
額への衝撃に、
朦朧としていたシエルの意識は、一気に引き戻された。


「ぃっ――「何故、貴方が……いいえ、そんな、でも確かに……」


立ち上がったセバスチャンは何歩か退がり、
化け物を見るような目を向けてくる。
刹那煌めいたのは、
遠き日の記憶を宿す、銀色の光。

セカイの調律した祈り 5
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『はい、これ』


華奢な体躯を持つ青年が差し出したのは、
特に装飾の施されていない銀色の指輪。
彼は薄い蒼の瞳を輝かせて、
漆黒の悪魔に微笑んだ。


『私に、ですか?』

『そう、僕も同じのを買ってさ。ペアリングってやつ?』


茶目っ気たっぷりに笑って薬指をちらつかせる彼は、
けれど芯の強い持ち主で。





『――どうせ貴方も裏切るのでしょう?』



幸せだった日々の中、
突然思い出してしまった記憶。
愛に裏切り裏切られる、悪魔の宿命。


『僕はお前を裏切ったりしない!』


差し延べられた手を、
いとも簡単に悪魔は振り払った。


『生憎裏切られることには飽きたんです』



背を向けて飛び立ち、純黒は純白へと。











(そう、この指輪は……)



光る指輪を拾い上げ、セバスチャンは瞼を閉じる。
……彼が叫んだ最後の言葉を、思い出した。





『お前と出会うためなら何度だって生まれ変わってやる! 何百年何千年経とうと、絶対に見つけだしてやるからなっ!!』





捨て台詞の常套句は、されど。
まさか……呪いだった、のか。



「――っ!? そんなっ、馬鹿な……ッ!!」


珍しく血相を変えて取り乱したセバスチャンは、
指輪を絨毯に叩きつける。
しかしソレは壊れることなく、
コロコロと転がって……シエルの薬指に収まった。
光は一層強くなり、
本来の場所に還れたような安堵感を放っている。
途端に――回復していく、傷。
一連の出来事を目の前にして、
セバスチャンはその場に膝をついて崩れ落ちた。
シエルは完治していく身体に戸惑うも、
とりあえず起き上がる。
淡く光を放つソレは、もう何も語りはしない。
もう充分に、語り終えたのだから。


「……ふふ、ははっ、あーっははははっ!」


狂い笑いが、歪に響く。
それはまさに“狂った”と呼ぶに相応しい、
戦慄を伴う脅威だった。
子供でさえ怯み、逃げ出したくなるぐらいの、異常。
故に、今踏み留まっていられるのは奇跡だろう。


「セバス、チャン……」


かける言葉も動作も、何一つ見つけられない。
全てが、彼の中で自己完結している。



(一体何が……)



「“貴方”は今も此処にいたんですね。まさか、嗚呼そんな……無力な人間にできる芸当ではないのに」


セバスチャンはゆらりと立ち上がり、
一歩ずつ距離を縮めていく。
反射的にシエルは、
一歩ずつ後退して距離を作った。
しかしすぐに壁際まで追い詰められ、
虚しくも逃げ場を失ってしまう。


「……っ」


セバスチャンの手が延びて、
シエルの両頬を挟むように掴む。
記憶の中の彼は、
薄い蒼の瞳に、淡い青の髪をしていて。
正に“空”を体現したような存在だった。
面影などは全くないのに、
収まった指輪だけは真実を告げている。


「己の魂の一部を指輪に託す、私が持っていなければ、何の意味もないのに」


そう、無意味なのだ。
二つ揃わなければ、共鳴は起こり得ない。
引力は成り立たない。
遺した一部の魂の痕跡を辿るなんて、
夢物語のような話で。


「……貴方なら、“貴方”が何故こんなことをしたのか、わかるでしょう?」

「何言って「冗談ですよ」


軽口を叩いた悪魔の顔は、ひどく儚げに寂しげに。
子供は息が詰まりそうだった。
痛い。
身体ではなく、心が。
代わりにさえなれないことに、
心が悲鳴をあげている。
代替品で満足できるわけもないけれど、
それにさえなれないというのは……


「……っ」


だから、考える。
積み重なった忘却の中から、
記憶の欠片を引き出すように。
自分ではない“自分”は、何を考えて――。
けれど、どれだけ考えても、頭を悩ませても、
シエルはシエル。
同じであっても、違うのだ。
それが、歯痒い。


「僕は「もういいんです。貴方が“貴方”ならば、私は貴方を殺せない……」


頬からゆっくりと、手が離れていく。
永遠に失う気がして、思わず腕を掴んだ。
――行くな、とは言えずとも。
セバスチャンは、
困った表情で見つめていた。
無理に無下に振り払うことはしない。
哀しげな視線に堪えられず、子供は俯いた。
どうすれば、どうすればいいのだろう。
どんな言葉をかけたら、
引き止めることができるのだろう。
気持ち悪い何かが、
思考に絡みついて邪魔をする。
記憶が引き出せない。


けれど思い出したい。
“代わり”になることが叶わないのなら、せめて。
セバスチャンを追い掛けた“自分”が、
指輪の送り主が、何を思っていたのかを。
ソレをシエルが知る術は、
もしかしたらないのかもしれない。
でも、きっと――何か、何かあるはずだ。互いに大切な存在は、ただ一人だけだから。
深く、深く、
本来ならば触れる必要のない記憶の水底まで、
沈んでいく。
あるかどうかもわからない答えを求めて。
いつこの手が振り払われてしまうか、
怖れながらもひたすら。


「……貴方には何も求めていませんよ」


諭すような声が突き刺さるのを無視して、
シエルはただ捜し求める。
繋ぎ止める、答えを。











――護りたい。












「――ッ!?」


突如脳内に直接飛び込んできた、声。
誰かいるのかと子供が辺りを見回しても、
気配は自分達のものだけで。
挙動不審にも似た様の主人に、
セバスチャンは何が起きたのかと小首を傾げる。


「坊ちゃん?」

「……」


反応は、ない。
今のシエルは姿なき声を追っているのだ。
――護りたい。
これは、誰の言葉?
子供は片鱗に触れた気がして、
集中力を最大限まで上げる。
この先に何かがある。
妙な確信が、胸の中にあった。
掴み取りたい。
子供は強く強く願う。
その願いは、呪われし契約をしたあの日より、
ずっと、ずっと、強固なもの。











『僕はあいつの心を護りたいんだ』



……ほら、また聞こえた。



『独りきりで彷徨っている哀れな悪魔……今はまだ、僕の力は足りないけれど』



聞こえるのは、無力を噛み締める痛切な声。
当然だ、置いて行かれてしまったのだから。
しかし、悲壮感はない。
全神経を傾けたシエルは、
声の姿をやっと捉えた。
……薄い蒼の瞳、淡い青の髪。





……そらが、そらを、みあげている。





『――必ず、見つけだす。例えどれだけの時を経ても、必ず。もう独りになんてさせない。――愛してる、から』



薬指に収まっている指輪を掲げ、誓う。
ソレを受けて、証は目映い光を放つ。
魂の一部が、その煌めきが、
銀色の中に収まっていく。


(ああ、これが……)

セカイの調律した祈り 完結
________________________________________



浮かび上がる、欠片。
それらが真に自分のモノではないと、
シエルは確信した。
己が作った幻想ではない。
ソレは確かに存在していたのだと。



だってほら、こんなにも懐かしい……。



そして気づかされる。
やはり違うと。
同じではないのだと。
護りたいも、愛しているも、
子供自身では口にできないから。
……だから、ほっとしたのかもしれない。
違うのならば、それだけは、確かに、
“自分だけの”言葉だ。


「――」

「……は、い?」


俯いて呟かれた言葉は、
セバスチャンには届かなかった。
小さな声が、再度唇から零される。


「――た、い」

「坊ちゃん?」

「――せ、ない」


肝心の言葉は、聞き取れず。
けれど、それほど大切だから。
嘲笑って、切り捨てられたくないから。
必死に、必死に。
言葉などいくらでも嘘を吐けるという人もいる。
だけど本当に大切な言葉だけを選ぶなら、
そこに嘘などあるはずもなく。
例え優しい嘘だとしても、想いは滲む。
心の問題なのだ。
どんな言葉を使うかではなく。


「坊ちゃ……シエ、ル」


俯いたままの頭を、
セバスチャンは躊躇いながらも優しく撫でる。
名を呼ぶ声は、常よりも柔らかい。
シエル――Ciel。
フランス語では『空』を意味する言葉だという。
もしソレが、
空を体現した“自分”と重ねたものならば……。
遣る瀬なさに、
子供は腕を掴む手に力を込めた。
皮肉めいて、それでいて哀しい。
けれど、その痛みを引き受けてでも、
伝えたい想いが……ある。
――たい、から。
――せ、ない、と決めたから。
例え“自分”の影響を受けていたとしても、
確かめる術などない。
だから、信じて告げるしかない。
永遠の愛など誓えなくても、
確固としたソレは譲れない。



「――僕は、お前を“救いたい”。もう独りになんてさせないッ!!」



顔を上げて、
シエルは精一杯の気持ちをぶつける。
望まれたのは“自分”の言葉だけれど、
それをそのまま伝えたのでは何一つ変わらない。
そう、思えた。


「シエ、ル……?」


突然の告白に、
彼は些か戸惑っている。
主人が感情を剥き出しにしていること自体、
己の目で見ても信じられないのだ。
いつだって状況から一線置いて、
甘い時間を過ごす時ですら、
自分の立場は頭から消えず。
フリばかりが、嘘ばかりが、
偽りばかりが上手くなっていった、はずなのに。
今のシエルは、悪魔も知らない一面なのだろう。



されど、受け入れるにはやはり容易くなく。



「……お気持ちはわかりました。ですが申し訳ありません。私が知りたいのは貴方ではなく「確かにっ! お前が求めていた言葉とは違うかもしれない。でも、でもっ、違っていても、変わらないものが、ある。もう、もう、お前を独りにしたくない……っ!」


シエルはセバスチャンの腕を引っ張り、
自分の方に寄せると抱き締める。
傍目からは抱きついているとしか見えない身長差。
生きた長さも悪魔の半分にも満たず、
何から何まで差は広がるばかりで。
それでも、不器用なりに、
本当に、本当に、想っていた……。



(嗚呼――)



触れたのは、優しさか温もりか。
否、呼ぶならば未知。
彷徨い続けた悪魔は知らない、この感覚を。
光など見るつもりはなかったのに。
裏切られる前に裏切り、
全てを終わらせるはずだったのに。
そうして生き続けるのだと、疑わなかったのに。


ふとセバスチャンが瞼を閉じれば、
白い翼の悪魔が哀しげに微笑んでいる姿が、
朧げに見えた。





『――宿命は変えられない。いつかはどちらかの色に染まる運命。それでも貴方は彼と在るのですね』



問いではなく、断定。
同じだからこそ、言葉を交わさずとも。
そして……導く側に、
今を生きる者を遮ることはできない。


忠告は意味を失い、残像は薄れゆく。
されど、無意味ではなかった、から。
セバスチャンは瞳で笑み、唇だけを動かした。
消え逝く白き翼に、
孤独に囚われ続けた悪魔に、最期に。


「――」



『……貴方は、言うと思いましたよ』



声にならないソレは、同じだからこそ届いた。
そして誰も知る必要はないから語る者もいない。
完全に消滅する刹那、
白い翼の悪魔は初めて微笑み返した。
儚さも、哀しさも、寂しさすら含まない、
安らかで満ち足りた笑みだった。
同じ道かもう一つの方を選んだならば、
きっと見られなかった。
純白も純黒も救済を与えはしない。
ただ繰り返すばかりに、
痛みを増やし続けるだけだったから。



「……シエル」


沈黙の後に発された名に、シエルは肩を震わせる。


「っ……」


――拒絶される。
即座に思って、子供は腕の力を強めた。
まるで幼い子供が親と離れるのを嫌がるように。
普段は全く垣間見ることさえない様に、
セバスチャンはクスリと笑みを洩らした。
全身全霊で求めてくるならば、
同じだけの誠意を以て。
主人と執事ではなく、互いの存在そのものに。



「……“最期の時”まで、共にいてくださいますか?」

「っ!?」


弾かれたように、子供は顔を上げる。
契約がある限り、
別離の運命には抗えない。
いつか必ず、終焉りが来る。
互いにソレを知っている。
故に永遠は誓えない。
魂を喰らわれ、
それでも共に在るだなんて、
逝く者の自己満足にすぎない。



――だから、最期まで。



「何を、今更っ……お前が離れたいと言ったって聞かない。僕が生きてる限り、この手は絶対に離さない!」



誓う、誓う。
唯一約束できる在り方。
……終焉りが来るから、信じられると。
セバスチャンはシエルを抱き締め、
頬に手を添える。
唇に口づけを、秘め事のように囁いて。



「イエス・マイロード。……どうか、放さないで」



肯定から、切願へ。
そう、願う、願う。
シエルが命令というカタチを取らなかった理由を知るからこそ、
どうか――と。
永い生の、刹那の瞬きでしかなくとも、
共に在れる瞬間(とき)は確かなモノ。
何にも覆せない真実。





だから――永遠など、いらない。

















黒き翼は裏切られた痛み。
白き翼は裏切った痛み。
――どちらも、孤独な色であり、痛みの証。
次に悪魔の翼を完全に染める色は、
どちらの色になるのか。いずれにせよ、
混色のままではいられない。



けれど、それはまだ先のこと。





今はただ、
二人で在れる確かな瞬間(とき)に、優しい祝福を。































fin

死渡幻夢様とても素敵な小説ありがとうございました♥
次回からは、相互リンク記念としまして、昨日サンプルを更新しました
「過去からの呼び声」書きますので、暫くお待ち下さい(^-^)
シエル女体、セバスチャン悪魔以外の人外、アニメⅡ期のメンバーも入り乱れての過去のセバシエですので、御注意を・・・
サンプルにあります様に、HバリバリR-18禁ですので、苦手なお嬢様は、お読みになりません様に・・・
原作のイメージが、果てしなく崩れる恐れがありますので、お読みになる方はご覚悟のホドを・・・
閲覧後の苦情は一切、受付ませんので、ご容赦のホドを・・・
それでは次回
「過去からの呼び声」第一章
「出会い」で再びお会いしましょう・・・
更新はツイッタ‐で致しますので、チェック下さいね(*^_^*)

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