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趣味のビーズアクセサリーと本人後ろ姿
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素敵な頂き物・相互記念「Angel Night~天使のいる場所~」 |
Tear drops様より、キリ番ゲットしたリクエスト小説を相互記念で頂きました(*^_^*)
「Angel Night~天使のいる場所~」 1日の仕事を終え、自室に戻ったセバスチャンは今や日課となった日記・・・その日どんなことをシエルと話したのか、シエルのちょっとしたかわいらしい仕草や、誰にも話す事ができないシエルへの赤裸々な想いなどを書きながら、物思いにふけっていた。 シエルの執事兼家庭教師となり、シエルは『女王の番犬』として認められたが、自分のせいでシエルの右腕を負傷させてしまったことを悔やまない日はなかった。 入浴の際に、傷跡がかすかに残ってしまった細く白い右腕を見ると、あの時の事を思い出し、もっと自分がしっかりしていればと思ってしまう。 シエルとこれからも一緒にいる為にも、今まで以上に私自身が技術的にも、精神的にも強くならなければいけない。 自分の運命に私を巻き込んでしまったと常に、負い目を感じているシエル。 本来ならば、許婚である私が成長したシエルと結婚をして、シエルの父親であるヴィンセント様の跡を継いで『女王の番犬』となるはずだったのだから、私の運命もシエルの知らないところで決まっていた事になる。 しかし、シエルは私が自分の許婚であることをいまだに知らない。 さすがに、10歳の少女に許婚だと言ってそばにいるよりは、執事兼家庭教師としてそばにいる方がいいと思ったのだが、シエルと過ごすうちに芯の強さやしっかりとした考えを持っていることを知り、ふと不安に感じる事があるのだ。 いつか、シエルは私から離れて行ってしまうのではないだろうかと。 自分から期間限定の執事兼家庭教師としてそばにいることを提案したが、シエルが16歳になったら、真実を話し、結婚をするつもりでいた。 それまでの間に、シエルと恋愛をしたいと思っているのだけれど。 「そばにいて欲しい」・・・シエルはそう言ったけれど、「ずっとそばにいて欲しい」とは、決して言わないのだ。 私は、「ずっとそばにいたい」と言ったのに・・・。 そう言ったことから考えてみても、シエルはずっと私と一緒にいるつもりはないのではないかと思えてならないのだ。 聞いてみたいとは思うけれど、なかなか聞く機会もなく、ずっと心に引っかかっていた。 今、聞いたところで、素直に答えてくれるとは思えない。 私は、シエルから離れるつもりなど全くない。 シエルに私の気持ちを伝えたとしても、きっとシエルは自分の意志を通そうとするだろう。 私がいなければ、生きていけないとシエルが思うようにしてしまえばいい。 私がいない人生など考えられないようになってしまえばいい。 こんなことを考える時点で、私は酷い男だと思う。 しかし、私はもうシエルのいない人生など考えられない。 決してシエルが、許婚だからではない。 シエルと共に過ごすうちに彼女の芯の強さや大人に負けないほどの強靭な精神力、しかしその反面、少女らしい表情や私にしか見せることのない幼くも脆い本当のシエル、ビスクドールのように愛らしくも美しい容姿に惹かれてしまった。 シエル以上の女性に出逢うことは、もうないだろう。 生涯を共に過ごす伴侶として、私はシエルをみているのだから。 日記を机の引き出しの奥にしまうと、燭台を持ち、サイドテーブルに置く。 この部屋は名目上、上級使用人用の部屋になっているのだが、私の正体を知っているタナカが気を使い、ベッドや家具を高級な物に密かに変えてくれている。 この部屋に来るのは、シエルしかいないのだから、他の使用人の部屋との違いなどわからないだろう。 ・・・タナカはどうやら、シエルがたまに私の部屋に来て寝ていることには、まだ気づいていないようだ。 燭台の灯りを消そうとしたとき、かすかに扉をノックする音がした。 気のせいだろうか? 様子をうかがっていると、またかすかに扉をノックする音がした。 セバスチャンは立ち上がると、扉をゆっくりと開ける。 真っ暗な廊下にたいぶ前に就寝の時間を迎えたはずのシエルが、フリルのたっぷりついた淡いピンク色のネグリジェを小さな手でぎゅっと掴みながら、下を向いて立っていた。 「・・・マイ・レディ。こんな遅い時間にどうしたのですか?」 寒い廊下に立たせておく訳にも行かないので、自分の部屋へ招き入れる。 「・・・・・・」 シエルはうつむいたまま、何も言わない。 セバスチャンは、片膝をつき跪くと、シエルと目線が合うようにする。 「怖い夢でも見たのですか?」 「・・・ち、違うわ。散歩していたら、この部屋だけ明かりがついていたから気になってノックしただけよ」 小さな声で言うと、さらにうつむく。 さらさらと絹糸のような長いブルネットの髪が前にこぼれ落ちて、シエルの顔を隠してしまう。 「こんな時間に散歩、ですか・・・マイ・レディ?」 「自分の屋敷だもの・・・いつ散歩してもいいでしょう?」 すぐに嘘だと分かってしまうのに、懸命に言い訳をしているシエルがかわいくて仕方ない。 「では、一緒に散歩の続きをして、お部屋に戻りましょうか?」 その言葉を聞くと、シエルは黙ったままイヤイヤと頭を左右に振る。 「散歩をされていたのでしょう?」 「・・・セバスチャンの意地悪」 シエルは顔をあげると、大きな青と紫のオッドアイの瞳は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそうになっている。 「私には、嘘をつかないという約束を守らないマイ・レディがいけないのですよ」 黙ったままシエルは、セバスチャンの胸元に抱きついてくる。 「・・・ごめんなさい。でも、部屋には戻りたくないの・・・」 「困ったマイ・レディですね」 シエルの小さな背中を撫でながら、冷えてしまった身体を抱きしめる。 「一緒に・・・寝てもいい?」 「・・・今夜だけですよ」 「うん」 シエルを抱き上げると、ベッドサイドに座らせ、靴を脱がせる。 「夜ももう遅いですから、横になってください」 「・・・うん」 私が靴を脱ぎ、ベッドに横になるのをどうやら待っているようだ。 サイドテーブルに置いた燭台の灯りを消し、ベッドに横になると、シエルは甘えるようにセバスチャンの身体にすり寄ってくる。 ・・・これは、何かに試練ですか、マイ・レディ? 「セバスチャンの身体って温かいのね」 「マイ・レディが廊下をこんな寒い時間に散歩されているから、身体が冷えてしまったのですよ」 セバスチャンはシエルの方を向き、胸元にシエルを抱きよせる。 「・・・・・・」 白い月明りの差し込む部屋はうっすらと明るい。 黙ってしまったシエルの顔を見ると、大きな青と紫のオッドアイの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちている。 「マイ・レディ?」 「・・・・・・」 セバスチャンの白いシャツをきゅっと掴み、さくらんぼのようにつややかな唇を噛みしめ、泣き声を洩らさないようにしている。 「今夜のマイ・レディは、何も私に話してくれないのですね」 「・・・・・・」 「泣かないでください、マイ・レディ。あなたのそばには、いつも私がいます」 「・・・そばにいてね、セバスチャン」 薔薇色の頬に手を添え、上を向かせると、涙に濡れた瞳にキスをする。 「いつまでもあなたのそばにいます。私の前では、本当のマイ・レディでいてくださいね」 「・・・わかったわ」 「さあ、目を閉じてください」 シエルは言われるままに、瞳を閉じる。 小作りなブルネットの頭を撫でていると、シエルは落ち着いたのか穏やかな寝息が聞こえてきた。 今夜は、どんな夢を見たのでしょうね。 セバスチャンは、しばらく頭を撫でていると、シエルの小さな声が聞こえてくる。 「・・・お・・・とう・・・さま・・・あかあ・・・さ・・・ま・・・」 眦に涙が滲んでいる。 突然、奪われてしまった最愛の両親の夢をみたのですね。 まだ親に甘えたい年頃のシエルだが、『女王の番犬』となり、父親から引き継いだファントム社の社長として、ファントムハイヴ伯爵として、常に気丈に振る舞っている。 せめて私の前でだけは、本当のシエルでいて欲しい。 シエルに、安らぎと癒しを与えられる存在になりたい。 亡くなった両親の変わりになれるなどと思ってはいないけれど、シエルが安心していることが出来る存在でいたい。 一緒に寝るのは、たまにですよ・・・そう口癖のように言ってはいるけれど、こうやって私を頼って来てくれる事はとても嬉しい。 少しはシエルを安心させることができているのだと実感することができるから。 あとは、私の理性の問題だけで・・・。 こんなにかわいらしいシエルが横で、無防備に寝ているのを見るとつい邪な事を考えてしまう。 ・・・私もまだまだですね。 セバスチャンはため息をつくと、シエルの華奢な身体を抱きしめ、目を閉じる。 せめて、夢の中ではシエルが望むような楽しい夢を見られるように願いながら・・・。
いつもの起きる時間になり、セバスチャンは胸元で穏やかな寝顔で寝ているシエルの頬に軽くキスをする。 気持ちよさそうに寝ているのに起こしてしまうのは、夜も遅かったことだし、かわいそうだろうと思い、ブランケットにくるむと、シエルを抱きあげ、他の使用人達が起きだす前にシエルを自分の寝室で寝かせておかなければと、静かに部屋をあとにする。 薄暗い廊下を歩き、シエルの執務室の扉を開け、寝室へと続く扉を開ける。 枕元にビターラビットがいくつも転がっているのを見ると、シエルも女の子なのだなと思う。 いつも、女の自分はいらないと言っているのに・・・。 セバスチャンは、シエルに気づかれないようにくすくすと笑うと、シエルをベッドの真ん中に寝かせ、布団をかける。 「もう少しおやすみください」 セバスチャンは、静かに寝室を出て行った。 自分の部屋に戻り、身なりを整えると、今や自分専用のキッチンとなったもう一つのキッチンへ入ると、バルド、メイリン、フィニ、タナカが座って待っていた。 「おはようございます、みなさん」 「おはよう、今日も寒いな」 とバルド。 「おはようございます、セバスチャンさん。今日の朝ご飯はなんですか?」 とにこにこと聞くフィニ。 「・・・お、おはようございますだ、セバスチャンさん」 となぜか頬を赤く染めているメイリン。 「ほっほっほっ」 と日本茶を飲んでいるタナカ。 「さあ、みなさん。自分の仕事に取り掛かってください。バルドは昨日壊したキッチンの修理を。フィニは、中庭の雑草抜き。トラップには気をつけてくださいね。メイリンは、今日は天気がいいので、たまっている洗濯物をお願いします。タナカさんは、・・・そのままでいいです」 「「「はーい」」」 3人は、それぞれの持ち場に移動していった。 「セバスチャン様」 「タナカさん、様はやめて下さいと言ったはずですよ」 「ほっほっほっ、つい癖で言ってしまうのですよ。今は、他の者もいないのですから、大丈夫ですよ」 「確かにそうですが・・・」 唯一、屋敷内でセバスチャンの正体を知っているタナカは時々、セバスチャンの事を「様」づけで呼ぶのだ。 伯爵家の次男であり、将来のシエルの夫となるセバスチャン。 「お嬢様の様子はどうですか?」 「時々、ご両親の夢を見ているようです。具体的にどんな夢を見たのかは言ってはくれませんが・・・」 「そうですか。お嬢様はあなたには心を許しているようですから、どうかお嬢様をいろいろな面で支えてあげてください。どうぞよろしくお願い致します」 タナカは深々と頭を下げる。 「頭をあげて下さい、タナカさん。私は、お嬢様を支え、癒せる存在になりたいと常に思っています。それは、誰かから強要されたからではなく、自分自身でそうしたいと思ったからです。今、お嬢様のそばにこうしていられることを私は、本当に良かったと思っています」 「ありがとうございます。お嬢様は、当主としてしっかりしなければと常に気を張っているようなところがありますので、あなたのように甘えることができる存在がいてくれる事が、何よりも救いになっていると思うのです」 「マイ・レディが、そう思ってくれているといいのですが・・・」 「自信を持って下さい、セバスチャン様。あなたが弱気になってしまったら、お嬢様を支える人がいなくなってしまいます」 「はい。わかりました」 「なんだか説教っぽくなってしまいましたね」 「そんなことはありません」 セバスチャンは、にっこりと微笑むとシエルの朝食の用意、アーリーモーニングティーの準備、新聞にアイロンを手早くかけていく。 台車にアビランド リモージュのなめらかな白い肌のようと形容される白磁の上に美しく描かれたバラが描かれたプティローズのティーカップとソーサーをのせる。 茶葉は、ハロッズのダージリンを用意する。 準備を整え、シエルの寝室へと向かう。 失礼致しますと声をかけ、扉を開けると、厚い蒼いカーテンを開ける。 「マイ・レディ。お目覚めの時間ですよ」 いつもはすぐに起きるシエルが布団から出てこない。 ブルネットの小作りな頭がもぞもぞと布団の中に隠れてしまう。 「マイ・レディ。身体の具合がよくないのですか?」 「・・・・・・」 「いつものマイ・レディらしくないですね。どうかしたのですか?」 「・・・なんでもないわ」 あきらかに不機嫌そうな声が布団の中から聞こえる。 何かあったのだろうか? 夜、寝る時は泣いていたけれど、すぐに寝てしまったのに・・・。 セバスチャンには、シエルが不機嫌になる理由がわからない。 「何か私がマイ・レディの気に障るようなことをしてしまったのでしょうか?」 「・・・・・・」 返事が返ってこない。 「もし、そうなら謝りますから、機嫌を直してください」 「・・・いいの。気にしないで・・・」 シエルは、布団から出てくると、薔薇色の頬が少し膨らんでいる。 やっぱり何かしてしまったのだ・・・。 セバスチャンは、新聞をシエルに手渡し、昨夜のことを思いだしながら、紅茶を淹れる。 「今朝は、ダージリンなのね」 「はい。本日は、ハロッズの物を。ティーセットは、アビランド リモージュのプティローズのティーカップとソーサーにしてみました。淡く可憐な薔薇がマイ・レディに合うと思いましたので・・・」 「・・・別にかわいくなくてもいいのに・・・」 むっとした口調のまま新聞をベッドに置くと、ベッドサイドに座り、足をぶらぶらとさせている。 「マイ・レディはかわいらしいですよ。紅茶をどうぞ」 「・・・ありがとう」 シエルは、セバスチャンと目を合わせず、ソーサーを受け取ると、香りを楽しみ、一口のむ。 いつもなら何か感想を言うのに、今日はむっとしたまま何も言わない。 一体、何をしてしまったのでしょうか、私は・・・? シエルが紅茶を飲んでいる間に、衣裳部屋に入り、今日のドレスを選ぶ。 思い当たる事が全くない。 いつもと変わらない朝のはずなのに・・・一体、何が気に入らなかったのだろう? こんな不機嫌なシエルを見ることのないセバスチャンは戸惑う。 まるで、ヤキモチを妬いている時のようだけれど、ヤキモチを妬かれるようなこともしていないと思うのだが。 ドレスを選び、それに合わせた靴下や靴、ヘッドドレスを選び終わると、シエルを呼びに行く。 「マイ・レディ。そろそろ着替えましょうか?」 「わかったわ」 ソーサーを受け取ると、台車に乗せ、先に衣裳部屋へと入ったシエルの後をついて行く。 ネグリジェを脱がせ、淡いピンク色のペティコートを着せると、赤いオーバードレスを着せる。 膝下のオーバードレスのウエストから左右に分かれた部分にはフリルがつき、その下に着た淡いピンク色のペティコートが見えるようになっている。 サーモンピンクのリボンを斜め前で結ぶ。 白い靴下をはかせ、黒の編上げのブーツをはかせる。 ドレッサーの前に座らせ、髪を梳かすと、サイドの短い髪をそのままに赤のフリルとピンクのリボンが左右についたヘッドドレスをつけると、鏡ごしにシエルに笑いかけるが、ぷいと横を向かれてしまう。 一体、どうしたらいいのでしょうね。 セバスチャンは苦笑いしながら、朝食の為、シエルと一緒に食堂へと向かった。
今日は、朝までセバスチャンは一緒にいてくれたのかしら? シエルは、スコーンを咀嚼しながら考えていた。 確か昨夜は、久しぶりにお父様とお母様の夢を見たら急に寂しくなって、セバスチャンの部屋に行ったはず。 セバスチャンの温かい身体に包まれて眠っていたはずなのに、朝、気が付いたら自分のベッドで眠っていた・・・。 いつの間に、セバスチャンは私を部屋に戻したのかしら? もしかしたら、私が寝てしまったらすぐに部屋に連れて行ったのかもしれない。 朝まで、セバスチャンと一緒にいたかったのに。 ・・・でも、これって私の我儘よね。 困ったような笑みを浮かべているセバスチャンをちらりと見ると、シエルは内心ため息をつく。 私が唯一、甘えられる人。 心を許し、信頼している人。 セバスチャンは、いつも一緒に寝るのはたまにですよと言うけれど、部屋に行くと必ず一緒に寝てくれる。 それに甘えてしまっている私。 セバスチャンの身体の温かさが、匂いが私を安心させてくれる。 だから、私が目を覚ますまで、一緒にいてほしい。 今日みたいに、気が付いたら自分の部屋にいた事は、何回かあったけれど、それだと朝まで一緒にいてくれたかどうかがわからない。 目が覚めた時に、セバスチャンの身体の温かさや匂いを感じていたいのに。 朝まで一緒にいてくれたのか聞きたいけれど、恥ずかしくて聞くことができない。 ついもやもやした気分になって、あんな態度をセバスチャンに取ってしまったけれど。 セバスチャンが困っているのがわかっているのに、いつもの私に戻れない。 どうしてかしら? 楽しく色々な事を話したいのに。 こんな私は、嫌いだわ。 シエルは、食事の手を止め、席を立つ。 「マイ・レディ。お食事はもういいのですか?」 「・・・もういいわ。執務室で仕事をしているから・・・」 セバスチャンの顔をみたいのに、今の自分が恥ずかしくて、嫌いで、見ることができない。 逃げるように、食堂をあとにする。 マイ・レディはどうしてしまったのでしょうか。 思い当たることのないセバスチャンは、途方に暮れる。 どうしたら、いつものシエルにもどってくれるのだろう。 10歳とは言え、女心は複雑なのですね。 深々とため息をつく。 いつもなら美味しいと言って、食べてくれる朝食も半分ほどしか食べていない。 こんなこと誰にも相談できないし、どうしたらいいものか。 しばらく様子をみるしかないですね。 セバスチャンは、台車に食器をのせ、キッチンへと運ぶと、後片付けを始める。 この後は、家庭教師としてシエルに勉強を教える予定になっていた。 かわいらしい笑顔がみたいです、マイ・レディ。 昼食の下ごしらえを済ませると、シエルのいる執務室へと向かう。 扉をノックするが、返事がない。 失礼致しますと声をかけ、扉を開けると、シエルの姿はなかった。 今度は、逃走ですか、マイ・レディ。 念の為、寝室を見るが姿はない。 シエルの行きそうな図書室、遊戯室、地下の射撃場シエルの姿を探していくが、どこにも姿がない。 おかしいですね。 シャンデリアの輝く玄関ホールを抜け、外にでる。 シエルのお気に入りの薔薇園へ行くと、ベンチに一人でぽつんと座っているシエルの姿を見つける。 静かに近づいて行くと、シエルは途中で気配に気づいたのか、うつむいてセバスチャンの方を見ないようにしている。 「今日のマイ・レディはどうしてしまったのですか?」 「・・・私に構わないで。私の我儘なんだから・・・」 小さな囁くような声でシエルは答える。 「我儘ですか。確かに、今日のマイ・レディは我儘ですね。一体、どうしたと言うのですか?」 シエルのそばに立つと、片膝をつき跪くと、絹糸のようにさらさらとした長いブルネットの髪で隠れてしまったシエルの顔を見つめる。 「・・・だから、私に構わないで。私だって、我儘が言いたいときだってあるのよ」 「マイ・レディはファントムハイヴ伯爵家の当主と言っても、まだ10歳の子供ですからね」 薔薇色の頬が少し膨らむ。 「・・・・・・」 「おや、気に障りましたか?本当の事を言ったまでですよ。いつまでそうやって、不機嫌な態度を取り続けるおつもりですか?」 「・・・・・・」 「今度は何も話さないのですか?マイ・レディはいつからそんなに我儘になってしまったのですか?」 「・・・・・・」 「何も話さないのであれば、マイ・レディの言うように貴女の相手をするのは、やめましょう」 セバスチャンは立ち上がり、膝に付いた泥を払うと、シエルに背を向け歩きだす。 「・・・行っちゃイヤ」 シエルの小さい声が聞こえるが、聞こえないふりをしてそのまま歩いて行く。 私が甘やかし過ぎてしまったのが、いけないのでしょうか。 シエルの我儘ならなんでも聞いてあげたいと思うけれど、この状態ではお手上げだ。 少しかわいそうな気もするけれど、ここでシエルの言うことを聞いてしまったら、シエルの為にもよくないだろう。 私は、シエルの家庭教師でもあるのだから、しっかりしつけもしなければいけない立場なのだから。 「・・・セバスチャン。行っちゃイヤ・・・」 涙声になっているシエルの声が聞こえないかのように、背を向けたまま歩いて行く。 セバスチャンが行ってしまう。 私の我儘のせいだわ。 いつもなら、すぐに抱きしめてくれるのに。 でも、どうしていいのかわからない。 一緒に寝てほしいと言うこと自体が、すでに我儘なのに、朝までそばで一緒に寝て、私を安心させてほしいなんて、言えないもの。 そんな子供みたいな我儘言えないわ。 朝までそばにいてくれたという証がほしいなんて。 「・・・セバ・・・」 涙で滲んでセバスチャンの背中がよく見えない。 うつむくと、大きな青と紫のオッドアイの瞳からぽろぽろと涙が、白く小さな手の甲にこぼれ落ちる。 私はいつからこんなに我儘になってしまったのかしら? セバスチャンにしか、甘える事ができなくなってしまったから? 本当の自分を見せる事ができなくなってしまったから? でも、いつかはセバスチャンと離れてしまうのに。 そう心に決めているのに。 セバスチャンの優しさに甘え過ぎなんだわ。 もうセバスチャンの部屋に行くのはやめよう。 きっとセバスチャンも心のどこかでは、迷惑に思っているんだわ。 優しいからいつも一緒に寝てくれるだけで。 私は、ファントムハイヴ伯爵家当主、シエル・ファントムハイヴ伯爵なのよ。 早く一人前の『女王の番犬』にならなければ、いけないのだから。 いつまでも甘えていてはいけないのよ。 誰にも甘えずに、一人で生きて往かなければいけないのだから。
かわいそうなことをしてしまっただろうか。 セバスチャンは薔薇園のアーチの下で立ち止まり、考えていた。 いつもはしっかりしているシエルがあんなにも不機嫌になり、自分に我儘を言うなんて、考えてみたら珍しいことなのに。 シエルの私への甘えなのかもしれない。 泣くのを我慢しながら昨夜、自分の部屋に来たシエルの姿を思い出す。 布団の中で、泣き声を殺して泣いていたシエル。 ビターラビットが散乱していたベッド。 自分を頼って甘えてくれるシエルを愛おしいと思う。 やはりきちんと話しを聞くべきだろう。 セバスチャンは、薔薇園の中へと戻っていく。 シエルはベンチに座ったまま、うつむいている。 ポケットからハンカチを取り出すと、目と手を拭っている。 ・・・泣いていたのか。 「マイ・レディ・・・」 セバスチャンが声をかけると、シエルは一瞬身体をぴくりと震わせる。 が、すぐに立ち上がると、セバスチャンの横を走って通り過ぎてしまう。 なぜだろう、今、とても大切なタイミングを逃してしまったような気がする。 取り返しのつかない事をしてしまったような・・・。 シエルの跡を追い、屋敷の中に入ると、シエルは大階段を上り、執務室の方へ向かっていく。 セバスチャンは急いで、執務室へ向かう。 扉をノックすると、 「・・・どうぞ」 と声が聞こえる。 失礼致しますと部屋に入ると、シエルが執務室で会社の書類のチェックを始めていた。 「何か用かしら、セバスチャン?」 そこにはいつものシエルがいた。 「マイ・レディ。先程の事をきちんと話しましょう」 「なぜ?」 シエルは小首を傾げて、大きな青と紫のオッドアイの瞳を細め、にっこりと微笑んでいる。 「マイ・レディの本当の気持ちを知りたいからです。私の前では、本当のマイ・レディでいてくださいと約束しましたよね?」 「そうね。でも私は、話すことなんてないわ。いつまでも、子供の我儘に付き合わなくていいのよ、セバスチャン」 「しかし、マイ・レディ。私は・・・」 「この話はもうお終いよ。今日は、会社の書類のチェックをするから、セバスチャンも自分の仕事に戻って」 シエルは、手元の書類に視線を戻す。 こうなってしまうと、シエルは何も話してはくれないだろう。 「かしこまりました」 セバスチャンは恭しく一礼すると、執務室をあとにする。 やはりあの時、きちんと話しを聞くべきだったのだ。 ・・・シエルは、私に心を閉ざそうとしている。 私は、シエルのサインを見逃してしまったのだ。 悔やんでも悔やみきれない。 どうしたらいいのだろう。 セバスチャンは、唇を噛みしめる。 シエルの心の支えになりたいと、安らぎを与える存在でありたいと思っていたのに。 このままでは、シエルはどんどん自分の殻にこもってしまうだろう。 誰にも、本当の自分を見せず、一人で生きて往こうとするだろう。 なんてことをしてしまったのだろう。 たった些細なことだったはずなのに。 それが、こんなことになるなんて・・・。 セバスチャンは、赤絨毯の敷き詰められた廊下をとぼとぼと歩いて行く。 そのまま地下の射撃場に行くと、射撃の練習を始める。 自分の愛する女性を子供扱いした挙句、自ら突き放すような事をしてしまった。 シエルの事をわかっているつもりでいたけれど、何も分かっていなかったのだ。 もう一度、シエルに信用してもらえるようにするにはどうしたらいいのだろう。 このままでは、私が不安に思っていたことが現実になってしまう。 シエルが私から離れていってしまう。 それだけは、避けなければ。 シエルが普通どおりにしているのであれば、私もまたシエルに普通通りに接しよう。 そして、少しずつ信頼を取り戻していくしかないだろう。
昼食もほとんどシエルは手をつけず、執務室へと戻って行ってしまった。 「お嬢様は、一体どうしちまったんだ?」 バルドが心配そうに声をかけてくる。 「・・・お嬢様も悩む事があるのでしょう」 セバスチャンは後片付けをしながら、ディナーはどうしようかと考える。 シエルの好きな物を作ったら、少しは食べてくれるだろうか? アフタヌーンティーのスイーツも好きな物を用意しよう。 あまり食べないのも、何かあった時に本来の力を発揮することが出来なくなってしまう。 執事として、シエルの体調管理も大事な仕事。 しかし、セバスチャンの気持ちとは裏腹にシエルは、アフタヌーンティーは紅茶だけ、夕食もほとんど手をつけることはなかった。 こうなったら、とことんシエルに付き合いましょう。 入浴の為、シエルの執務室へ向かう。 「マイ・レディ。入浴の準備をしてもよろしいでしょうか?」 「・・・お願い」 シエルは、本から視線をあげることなく答える。 猫足のバスタブにお湯をいれ、用意してあった薔薇の花びらを浮かべ、薔薇のオイルもいれる。 少しでもシエルの気持ちが、やわらいでくれたらいいのだけれど。 上着を脱ぎ、シャツの袖をまくる。 「マイ・レディ。用意ができましたよ」 「わかったわ。今、行くわ」 シエルは、本にしおりを挟むと、ローテーブルに置く。 ヘッドドレスをとり、髪を前に流すと、オーバードレスの背中のボタンをはずし、ペティコートを脱がす。 白磁のように透けるような滑らかな肌が露わになると、胸が高鳴ってくる。 何度、入浴の手伝いをしてもいまだになれる事がない。 お湯を身体にかけると、シエルは猫足のバスタブに華奢な身体をつける。 薔薇の花びらが浮かんでいるのを見て、手ですくって遊んでいるが、何も言ってこない。 「髪を洗ってもよろしいですか?」 「うん」 絹糸のように手触りのいい長いブルネットの髪にお湯をかけ、薔薇の香りのするシャンプーをつけると、いつものように丁寧に洗っていく。 「薔薇の花びらは気にいって頂けましたか?」 「・・・うん」 シエルは、大きな青と紫のオッドアイの瞳を閉じてしまう。 私と話す事を拒絶しているようにも見える。 「泡を落としますよ」 「うん」 泡をシャワーで洗い流すと、トリートメントを丁寧に揉みこんでいく。 「先に身体をあらってもよろしいですか?」 「・・・うん」 シエルの髪を上でまとめると、シエルはバスタブの中で立ちあがる。 ボディーソープをスポンジにつけると、泡立てシエルの細い腕を洗う。 「・・・なんで今日はスポンジで洗うの?」 いつもは泡を取り、素手でシエルに触れて身体を洗っているからだろう。 「マイ・レディは直接、私に触れてほしくないのではないかと思ったのですが、いつも通りの方がいいですか?」 「・・・いつも通りでいいわ」 「かしこまりました」 スポンジから泡を取ると、細く白い首に泡をつけ、撫でるように洗っていく。 「・・・く、くすぐったい・・・」 シエルはセバスチャンの手から逃れるように、身体を捩る。 「では、スポンジで洗いますか?」 「・・・スポンジはイヤ。セバスチャンの手がいいわ」 「それでは、くすぐったいのを少し我慢してください」 胸に泡を伸ばし、撫でるように洗う。 淡いピンク色の果実が目に入り、手のひらで、触れるか触れないかの愛撫のような洗い方をするとシエルの華奢な身体がぴくりと震える。 「どうか致しましたか、マイ・レディ?」 「な、なんでもないわ」 明らかにシエルは、いつもと違う感覚に戸惑っているようだ。 反対の淡いピンク色の果実にも、愛撫ともとれるような洗い方をする。 大きな青と紫のオッドアイの瞳がうっすらと潤んでくる。 身体は正直なようですね。 腹部、小さな背中、小さなヒップを洗い、細い脚を洗う。 そのたびにシエルの身体は、ぴくりとかすかに震える。 かわいいですね、マイ・レディは・・・。 せっかく入浴の手伝いをしているのですから、私の手の感覚をその身体に刻みつけさせて頂きましょう。 シエルは、いずれ私の妻になるのですから。 夫になる私の目の前に、未成熟な果実のような身体を露わにしているシエルもいけないのですよ。 シャワーで身体の泡を落とし、長いブルネットの髪のトリートメントを洗い流していく。 薔薇色の頬が赤く染まり、大きな青と紫のオッドアイの瞳がしっとりと潤んでいる。 許されるのならば、このままベッドに連れて行きたいくらいだ。 「もうでたいわ」 「かしこまりました」 ふかふかのバスタオルでシエルの身体を包み込むと、シエルはどこかほっとしたような表情をする。 濡れたブルネットの髪を乾いたタオルで丸め、淡いブルーのシフォンのネグリジェを着せると、そのままドレッサーの前に座らせ、濡れた髪の水分を拭き取り、櫛で梳かしていく。 「すぐにおやすみになりますか?」 「・・・少し本を読んでから寝るわ」 「かしこまりました。何かお飲物をお持ち致しましょうか?」 「・・・いらないわ」 シエルは椅子から立ち上がると、執務室へ向かい読みかけの本を手に、寝室へと戻ってくる。 ベッドに入り、サイドテーブルの燭台の灯りの下、本を読み始める。 セバスチャンは、浴室の片付けをすると、 「おやすみなさいませ」 と、恭しく一礼すると、シエルの寝室をあとにする。 なんで、今日はいつもと違う感じがしたのかしら? セバスチャンに身体を洗ってもらうようになってから、いつもくすぐったくて仕方がなかったけれど、今日はくすぐったさとは違う感じがした。 あれは、何だったんだろう。 ・・・身体が熱い。 シエルは、本をサイドテーブルに置くと、近くに転がっていたビターラビットを手にすると、胸元に抱きしめる。 これで、いいのよね。 セバスチャンと一線を置くくらいの方がきっといいんだわ。 いつかは離れてしまうんだもの。 甘えてばかりいたら、セバスチャンから離れられなくなってしまう。 自分にとって、セバスチャンがいなくてはならない存在になってしまうのは、許されないことなのだから。 セバスチャンは唯一、私の甘える事ができる存在。 心を許すことができる存在。 でも最初から、そんな存在を作ってはいけなかったのよ。 『女王の番犬』になると決めたあの時から。 だから、これでいいの。 私は、早く一人前の『女王の番犬』になることだけを考えればいいのよ。 一人前になった時が、セバスチャンとの別れのときなのだから。 シエルは、サイドテーブルの燭台の灯りを消し、ビターラビットと共にベッドにもぐりこむ。 私は、一人でも生きて往ける。 誰にも頼らなくても、生きて往けるわ。 甘えや弱さは、命とりになる。 今ならまだ傷つかずに離れることができるわ。 ひと時だけでも、両親の変わりに甘える事ができる存在がいただけでも、私は幸せだわ。 セバスチャンがいなくても、私は大丈夫。 シエルは、心の中でまるで呪文のように、自分に言い聞かせるように繰り返す。 これ以上、心を許してはいけない。 これ以上、甘えてはいけない。 これ以上、セバスチャンを求めてはいけない。 これ以上、私の運命にセバスチャンを巻き込んではいけない。 心なんてなくなってしまえばいいのに。 もう「子供」の私は、両親と一緒に死んでしまったのだから。 心も一緒に死んでしまったと思えばいい。 そうしたら、きっと楽になれるわ。
その後、数日間シエルはいつもと同じように過ごしているように見せていたが、私からみたら明らかに自分を偽っているようにしか見えなかった。 食事も相変わらず、あまりとらず、タナカがシエルの身体を心配して、話しかけてもにこにこと笑い、「何もない」と答えていた。 会社の書類のチェックや勉強、剣術、射撃、格闘技・・・いつも通りにシエルはこなしていく。 みんなには、いつもと変わらない笑顔を見せているけれど、目は決して笑っていない。 頻繁に来ていた私の部屋にも夜、全く来なくなった。 ちゃんと夜、眠る事ができているのだろうか? あんなに悪夢や両親の夢を見て、泣いていたシエルが急に、眠れるようになったとは思えなかった。 いくら気が強く、芯のしっかりしたシエルでも、限界は近いのではないだろうか。 セバスチャンは、何も言うことができず、ただいつも通りに接して、見守ることしかできない自分を歯がゆく感じていた。 入浴のたびに、シエルの華奢な身体が小さくなっていくように感じる。 それでも、シエルは何も言おうとはしなかった。 黙って、身守り続けるのも限界だった。 セバスチャンは、明日の朝食の下ごしらえをすませ、屋敷の閉じまりを確認し、シエルの寝室へと向かう。 シエルが寝ているのか確認する為に。 執務室の扉をゆっくりと開け、寝室へと続く扉を開けようとすると、中からかすかな物音と声が聞こえる。 「・・・イヤ・・・わたしに・・・ちかづかないで・・・」 誰か侵入者でもいるのだろうか? でも、何者かが中に入った形跡は全くない。 寝室の扉を静かに開けると、布団を頭からかぶり、ベッドの隅に座り込んでいるシエルの姿があった。 部屋の中を見るが、誰もいない。 「マイ・レディ?」 「・・・だ、だれ?・・・ちかづかないで・・・」 今にも消えてしまいそうな小さな声で言う。 「セバスチャンです。貴女の執事の・・・」 ゆっくりと近づき、シエルに触れようとすると、小さな手で振り払われる。 「・・・さ、さわらないで・・・わたしに・・・さわらないで・・・」 布団の中でシエルの身体はガタガタと震えている。 「マイ・レディ。どうしたのですか?」 燭台をサイドテーブルに置き、ベッドサイドに座る。 「だれも・・・わたしに・・・ちかづかないで・・・」 胸元にはビターラビットを抱きしめている。 「何をそんなに怖がっているのですか?」 「・・・こわくないわ・・・わたしは・・・ひとりでも・・・だいじょうぶなの・・・」 「そんなに震えているのにですか?」 「・・・わたしは・・・ひとりでも・・・いきていけるの・・・」 「なぜ、頑なに私を拒むのですか?」 「・・・だれにも・・・あまえては・・・いけないの・・・よわいところを・・・みせては・・・いけないの・・・」 「私には本当のマイ・レディを見せてくれると約束したのにですか?」 セバスチャンは、靴を脱ぐと、少しずつシエルに近づいて行く。 「・・・いまなら・・・きずつかずに・・・すむから・・・わたしは・・・ひとりで・・・じょおうのばんけんに・・・ならないと・・・いけないの・・・」 「どうして今なら、傷つかずにすむのですか?」 「・・・あまえていたら・・・わたしは・・・セバスチャンから・・・はなれられなくなるから・・・ずっと・・・そばに・・・いてほしくなってしまうから」 かぶっていた布団をゆっくりとシエルの頭から降ろし、うつむいているシエルを抱きしめる。 久しぶりに抱きしめたシエルは、思っていた以上に痩せていた。 「私には、甘えていいのですよ。本当のマイ・レディを見せていいのですよ。私は、ずっと貴女のそばにいるのですから・・・」 「・・・だめよ・・・ずっといっしょに・・・いられない・・・」 「ずっと一緒にいる事ができる魔法の呪文を私は持っているのですよ。今はまだ、言うことができませんが・・・私を信じてください。そして、また私を頼ってください。今のマイ・レディを見ているのは、とても辛いです」 「・・・どうして・・・セバスチャンが・・・つらいの・・・」 うつむいていたシエルは顔をあげると、大きな青と紫のオッドアイの瞳は涙に濡れ、燭台の灯りを受け、2色の宝石のように輝いている。 「シエルが私にとってかけがえのないとても大切な存在だからですよ。シエルの変わりはこの世界にはいません。今までのように、私を頼って、甘えてシエル・・・」 涙に濡れる頬に、目元にキスをする。 「・・・たよっては・・・ダメなの・・・あまえては・・・ダメなの・・・だって・・・わたしの・・・わがままだもの・・・」 「我儘ではありませんよ。私は、シエルが甘える事ができる存在でいたいのです。そして、シエルを癒すことができる存在でいたいのです。私が今、一番望んでいることです。シエルも私にそうあってほしいと望んでいるのでしょう?」 「・・・だって・・・わたしの・・・わがままだもの・・・」 大きな青と紫のオッドアイの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。 「シエルの我儘であり、私の我儘ですよ。ふたりの我儘なのですから、お互いにいいと思っていれば、我儘にはなりません」 「・・・ほんとうに?」 「本当ですよ。お互いがお互いに望んでいる事です。我儘ではありませんよ」 「・・・めいわく・・・ではないの・・・」 白い頬にこぼれ落ちた涙を舌ですくい舐める。 「迷惑だなんて思った事は一度もありませんよ。私は、シエルには嘘は吐きませんよ」 「・・・ほんとうに?」 「はい。ですから、シエルも私に嘘を吐いてはいけませんよ」 「・・・うん」 絹糸のようにさらさらとした長いブルネットの髪を撫でるように梳かすと、シエルは安心したように大きな青と紫のオッドアイの瞳を細める。 「では、この間、朝から機嫌が悪かったのはなぜですか?」 「・・・朝までセバスチャンがそばで一緒に寝てくれていたのか、わからなかったから。気が付いたら、自分のベッドで寝ていたから、セバスチャは私が寝た後、すぐに私を部屋に連れて行ったと思ったの・・・。朝まで一緒にいたっていう証が欲しかったの」 シエルは白い頬を薔薇色に染めて、セバスチャンの紅茶色の瞳をじっと見つめる。 「そう言ってくだされば、ちゃんとお答えしましたよ。あの日も朝まで一緒のベッドで寝ていましたよ。あまりにも気持ちよさそうに寝ていたので、起こさない方がいいと思ったので、起こさずにお部屋に連れて行ったのですよ」 「・・・だって・・・聞くのがはずかしかったんだもの・・・」 「シエルはかわいいですね。それでは、今度からは私が起きた時に、シエルに声をかけるようにいたしましょう。それでよろしいですか?」 「・・・うん」 「聞きたい事があれば、恥ずかしがらないで聞いてください。今回のように、シエルに避けられてしまうのは、たえられません」 セバスチャンは、シエルの華奢な身体を強く抱きしめる。 「・・・わかったわ」 「それと、私から離れようとしてもダメですよ。私が、シエルを離しませんから・・・」 「・・・なぜ?」 シエルは小首を傾げて、セバスチャンを見つめる。 「シエルを誰よりも愛しているからです」 さくらんぼのようにつややかな唇に、そっと自分の唇を重ねる。 柔らかな唇の感触が心地よくて、何度も唇を合わせるたけの甘い口づけを交わす。 お互いの瞳に、お互いが映っているのをじっと見つめ合う。 「・・・セバスチャンの唇って、柔らかいわ」 「シエルの唇も柔らかいですよ」 見つめ合い、微笑み合う。 久しぶりにシエルの笑顔を見たような気がする。 「シエル、夢の時間は始まったばかりですよ。今夜は、ゆっくりと眠ってください」 「朝まで一緒にいてくれる?」 「もちろんです」 サイドテーブルの燭台の灯りを消すと、シエルを片手で抱きしめたまま、布団を整え、二人でベッドに横になる。 「・・・これは・・・夢なの?」 「夢、かもしれませんね」 セバスチャンの胸元に顔をうずめ、自分を安心させてくれる温かさと匂いに包まれシエルはゆっくりと瞼を閉じる。 小作りなブルネットの頭を撫でながら、キスをする。 「・・・セバスチャン、ずっと・・・私のそばにいてね」 夢の中でなら、何も気にせず、本当の自分の気持ちが言えるわ。 「いつまでもシエルのそばにずっといますよ。愛しい私のシエル」 セバスチャンの声が、力強い鼓動がとても心地いい。 やっと私の唯一、安心できる場所に戻れた。 「・・・愛しているわ、セバスチャン」 「!?」 セバスチャンは、自分の耳を疑った。 今、聞こえたのは本当にシエルの声だろうか? 「私も愛していますよ、シエル」 きっとシエルの口からちゃんと聞くことができるのもそう遠くないだろう。 シエルの成長は、私が思うよりもずっと早いのだろう。 額にキスをすると、セバスチャンもシエルの華奢な身体を強く抱きしめ、瞼を閉じる。
翌朝、セバスチャンは起きるとすぐにシエルに声をかけたのは、言うまでもない。
END
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